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だがそれと俺の都合は何の関係も無い。
「雪が心配ならついでに言うけど、あいつにもまた家庭教師頼みたいんだよ」
一緒ならどうだと提案したにも関わらず、山室は眉を顰めた。
「……はっきり言わせて貰いますけど。雪をあんまりあんたに近付かせたくない」
山室の溺愛っぷりには呆れて言葉も出ない。
「もうあいつを使う気はないよ。それにこれ、お願いとかじゃないんだけど?」
難しい顔をして黙り込んだ山室を見るのも飽き飽きして、俺はガラスの向こうの陽炎に視線を移し煙草に火を付ける。
しかし直ぐにこんな無駄な時間は無いと、駄目押しをしようかと思って口を開いた所で、山室の携帯が鳴った。面倒臭そうに耳に当てていた目の前の男の顔がみるみる青褪めて行くのを眺めながら呑気に紫煙を燻らす。短い会話で電話を切った山室が徐に立ち上がると、震える唇を必死に動かした。
「将生さん、慎太郎……病院運ばれたそうです」
「……は?」
青天の霹靂とは正にこの事だ。その一本の電話で一時その話しは中断となった。
第一章・完
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