第二章 寂寞の部屋

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 明け方近くに眠る男を残し、俺はマンションを後にした。そのままタクシーに揺られ流れる景色を眺める。  やがて辿り着いたマンションの扉を抜けると真新しい建物の匂いに嗚咽が漏れ、俺は慌てて口を抑えたもののそれ以上進めずその場に座り込んでしまった。想像以上の身体の不調が憂鬱を更に重くさせる。気力だけで立ち上がろうにも冷や汗が止まらない。キツく目を閉じても世界がグラグラと揺れる。幸い早朝と言う事もあり人が通らないのが救いだ。  暫く蹲って落ち着く迄待つと、五分位で漸く立ち上がる事が出来た。フラつく足取りでエレベーターに乗り込み、再び襲う重力に押し潰されそうになりながらもやっとの思いで自宅のある階に辿り着いた。  広い玄関を抜けてリビングに出ると、ソファでは山室が険しい顔で眠り込んでいる。純平に当てがった部屋を覗くと、手の掛かる居候もちゃんと眠っていた。穏やかな寝顔を確認して再びリビングに戻り、山室の対面のソファに深く腰を沈める。なんだか、酷く疲れた気がする。静寂が支配する真っ新な部屋で一人、重い瞼を閉じた。
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