第二章 寂寞の部屋

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 夢を見た。秋が近づくとよく、見る夢だ。  耳を裂く銃声と、鼻を突く硝煙の匂い。それに混じる生臭い血の匂い。真っ赤に染まった白いソファが、絶命した男を優しく抱いている。今迄動いていた人間が、突然動く事を止めた瞬間。それは余りにも不自然だった。  義理に人情。そんな下らない感情に揺さぶられ命を賭すなんて、俺には理解が出来なかった。俺を殺せと言う上の命令なら黙って従えば良い。元より何の脈絡もなく生きている人間だ。何処で何時死のうが大して変わらない。この世にしがみ付く気もなければ、あんたみたいに夢なんか無かった。会長の命令も、俺の命も両方守るなんて不器用な癖に図々しい。  温もりが消えて行く人間を目の前にして湧き上がったものは、冷ややかな侮蔑。血に塗れ乱れた男の黒髪を掻き上げて、俺は一人笑っていた。  涙さえ忘れた自分が酷く、虚しくなった瞬間だった。
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