第二章 寂寞の部屋

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 黒々と塗り固められた悪夢から目が覚めると、独特の薬品の匂いが鼻を突く。自宅の物ではない白い天井を見ながら俺は一瞬自分が死んだのかと思った。  そんな幻想も、耳に響いた渋い声で打ち砕かれる。 「おはようございます」 「……ここは?」  枕元の椅子に腰を下ろしていた山室が未だ事態が飲み込めず辺りに視線を這わす俺に呆れた溜息を吐いた。 「過労に栄養失調。胃潰瘍はあと一歩だったそうですよ。良く平気な顔で歩いていましたね。あんたは化物だよ」  山室の口から語られた症状が、自分の事だとはまるで思えなかった。  呆然とする俺に向けて再び呆れた視線が向けられる。 「何を信じられないみたいな顔してるんですか。飯も食わないで珈琲ばっかり飲んでたら誰だって胃位荒れますよ。それに純平が来てからロクに寝てないんじゃないですか?」  確かに、純平が来てからは満足に眠る事も出来なくなっていた。あいつは一人じゃ眠れない。ずっと側にいた母親が急にいなくなったからか、度々俺の部屋を訪れる。お陰で毎日ロクな睡眠も取れなかったのは事実だ。だがまさか病院に担ぎ込まれる程とは思ってもみなかった。
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