第二章 寂寞の部屋

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 読み掛けの本を閉じた山室が、まるで子供に言い聞かせるようにぼんやりと考え込む俺に言葉を掛けた。 「将生さん。これを機に少し休みましょう。あんたは何でも一人で抱え過ぎなんですよ」  窓から差し込む真夏の太陽が、まるで後光のように男の広い肩を光らせる。 「……俺は慎太郎とは少し違ってね。あんたを心底憎めないんですよ」  あまりにお人好し過ぎて、思わず湧き上がる笑いを抑え切れなかった。  バカな男。確かにお前のその底無しの愛情深さで救えた人はいた。 「雪のように、俺も変われると思った?」  だが俺は違う。冷ややかな笑みに、山室は俄に眉を顰めた。 「俺は揺れない」  例え、何があったとしても。  俺の為に、誰が命迄賭したとしても。 「将生さん、あんた────」  そこ迄言うと背後で病室の扉が開く音が響き、山室は目を見開いてその一点を見詰めている。俺が振り向くより先に、薄く開いた唇が、その名を呟いた。 「……冬弥?」  その名前に俺も一瞬思わず息が止まり掛けた。しかし直ぐに湧き上がったのは、これを仕組んだであろう人物への怒りだ。俺の居場所を知っていて、かつこんなお節介を焼くバカは一人しか思い付かない。 「山室さあ、ちゃんと躾してない訳?」  俺の八つ当たりの矛先は、何時でもこの男。だが俺と後ろの人物の間で交互に視線を走らせながら、最早山室に何時もの冷静さは無かった。
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