第三章 歪な波紋

2/11
230人が本棚に入れています
本棚に追加
/285ページ
 俺は結局そのまま一週間の入院を余儀無くされた。その間の会食や打ち合わせは当然全てキャンセル。俺の代わりに山室や慎太郎を向かわせるなんて頭は最初から無い。俺は山室の言う通り、何でも自分一人でやらないと気が済まないのだ。  純平は一時山室に預かってもらう事にして久しぶりの邪魔者のいない生活。会社を立ち上げて十年にはなるが、これ程迄ゆっくりと過ごす時間はあっただろうか。メールや電話で済ませられる仕事はしていたものの、面会に来る僅かな人間と会話をするだけの時間。だがカーテンの隙間から漏れる陽光に微睡む優しい休息は、逆に俺の心を疲弊させて行った。  その日もガラス越しに聞こえる薄い蝉の声をBGMにぼんやりと風に揺れる深緑の樹木を眺めていると、病室の扉が遠慮も無く開かれた。 「おう将生。元気そうじゃねえか」  ズカズカと静かな個室に突撃して来た人物は、浅黒いスキンヘッドの中年男。組の幹部であり、立場上は俺の兄貴分でもある篠原文徳(しのはらふみのり)。枕元の椅子に腰を下ろした途端に煙草に火を付ける様な、品性の無い野郎だ。
/285ページ

最初のコメントを投稿しよう!