第三章 歪な波紋

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 暫くどうでも良い話が続き、何時も通り適当な相槌を打っていると、篠原はふと思い出したように煙草を揉み消した。 「そうそう、近々國真会と金丸組の間で大規模な出入りがあるらしい。特にお前さんは気付けてくれよ?間違っても広島には行くな」  山室組直参の一つである國真会は元々、俺の昔いた組だ。篠原の言ったどちらも広島に拠点を置く暴力団。そして広島は俺の故郷でもある。つい数ヶ月前迄身を隠す為に帰っていた事も事実だ。どちらにも顔が割れている事もあって、決まった舎弟を持たない俺が一人で行くのは危険だと言う事だろう。 「行く訳無いじゃないですか。今更広島に用は無いですよ」  半ば不機嫌になってそう返した俺を見て、篠原は大袈裟に眉を顰めた。 「ああ?何言ってやがる。毎年あの男の命日に墓参りしてんだろ。俺の情報網を舐めんなよ?」  珍しく心臓が竦み上がり、嫌な汗が背中にジワリと滲む。 「しっかし何でまたあんな奴の墓参りなんか行くかね。そんな物好きはお前と孝明(たかあき)だけだ」  遠慮も無く言葉を続ける篠原に、その話はそれ以上するなとの意図を込めて視線を向ける。一応汲み取ってはくれたのか、男は大袈裟に戯けて見せた。 「おいおい悪かったよ。そんな怖え顔すんなよ。飴食うか?廊下で婆さんにもらってよ」  スーツのポケットから取り出された梅の飴は、袋から剥かれ鼻先に突き出された。次いでぐいぐいと押し付けて来るものだから、仕方が無く口を開けて篠原の手から飴を食わされる。まるで餌付けされる動物のようで、酷く不愉快だ。
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