第一章 狼少年

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 春も終わり、茹だる様な夏が訪れた。高層マンションの高層階、大きなガラスの向こうではビルがゆらゆらと輪郭を滲ませる。快適な室内にいても思わず汗が吹き出てしまいそうな程に、その陽炎はいらない想像力を掻き立てる。  そんな朝八時。猫舌には丁度良く冷めた珈琲を口に運びながら、ミミズの這った様な文字が羅列された〝遺書〟を読み返す。もう何十回読み直しているだろうか。やっと最近全ての文字を理解する事が出来た。小学生でももっとマシな字が書ける筈だ。  ふと耳に触れた食器が擦れる小さな音に、手元の遺書から対面で朝食を続ける少年に視線を移す。随分前に食べ終えた俺とは対象的に、そんなに量の多く無い朝食のサラダは半分も減ってはいない。まるで幼い子供の様な不器用な箸の持ち方。だがもたもた箸を動かす少年は、見た目が高校生位なだけに、幼児と言うより日本に来たての外人を見てるみたいだ。  細い髪は光に透ければ薄い茶色。瞬きする度に音を立てそうな程長い睫毛の下の、薄いブラウンの瞳。日本人の中でも一際色素が薄い。長い手足に細い身体は、可笑しな気品すら感じる程綺麗な少年だ。気品とは程遠い生活をしていたらしいけど、持って生まれた物なのだろうか。
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