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「……その人、ガキの頃から俺の面倒見てくれた人でさ。俺親に恵まれなかったんだけど、親の代わりに飯作ってくれたり、寝る時手握っててくれたり……優しい人だって信じてた。でも知らなかったけどその人本職の人でさ。親父の借金形に、身体、売らされそうになって……でも、好きになっちゃって────」
そこ迄言うと耐え切れなくなったかのように何故か榎木さんが話を止めた。
「……ちょっと待って。半沢って天然?」
何の事だと顔を上げると、結城さんが俺の濡れた頬を乱暴に拭った。
「そのヤクザ屋さんのおっさんに惚れてどうした?」
「……あっ!」
そこで漸く俺は自ら墓穴を掘った事に気付く。感傷的になって、まるで隠す事を忘れていた。バカだ。
途端に慌てふためく俺を見て榎木さんは呆れ顔で溜息を吐いた。
「良いよもう隠したって無駄だから。それで?」
とっとと続きを話せと催促され、俺も渋々話を再開する。バレてしまったものは、仕方がないし。
「優しくしてくれてたのも全部、その人の復讐?の為で、それで……訳わかんないまま捨てられた。一年以上経つけど、ずっとその人の事忘れられなくてさ」
どんなに思い返してもやっぱり惨めだ。二人は中々口を開こうとせず、俺もそれ以上話す事もなく、時間だけが流れて行く。
暫くの沈黙の後、腕組みをしていた結城さんが難しい顔で口を開いた。
「でもさ、良く本職の居場所なんか分かったな」
「ああ、知り合いが教えてくれた」
「……それ俺達じゃなくてその人に相談すればいいんじゃないの?」
まあ、そりゃそうだけど。俺としては全く関係ない第三者の意見が聞きたかったのだ。雪さんは白井さんを知り過ぎてる。何より、多分あんまり良くは思ってないから。
そんな物思いにふけっていると、榎木さんは徐に鞄を持って立ち上がった。
「翔太帰ろ。俺達の手に負える話じゃないでしょ。本職相手なんて」
「えー見てみたい」
「良いから!」
ごねた結城さんを半ば引き摺るように二人は慌てて出て行ってしまった。
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