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「この世界には、雨、というものがあるの?」
隣を歩く、じいやに訊ねる。
じいやは立ち止まり、湿った声で「どこでそれを?」と質問返し。わたしは、ぱさぱさの肩掛けかばんから、絵の描かれた束を取り出した。
「これに描かれたの」
「絵本じゃないか」
「エホン?」
「絵の描かれた物語のことだよ」
じいやの言うモノガタリもよく分からないのだけれど、じいやはお月さまみたいな笑みを浮かべて束をめくっていく。ぶんかを感じるなあと、意味の分からないことを呟いた。
こういうことは時々、ある。わたしの世界を構成する全てはじいやに委ねられている。わたしと同じ形をした生き物はじいやしかいない。(同じ形といっても、じいやはヒゲがもじゃもじゃで、頭のてっぺんには髪の毛がない。顔もしわしわだし、全体的にぱさぱさしている。同じ生き物でも、種族が違うとじいやは言っていた)
じいやが教えてくれたことが、わたしの世界の全てで、じいやが教えてくれないことは、わたしにとっては存在しないことと同じことなのだ。だからわたしは、じいやに教えてとねだる。
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