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「モノガタリってなんなの」
「娯楽と言っていいのか。想像の産物というか」
「もっと簡単な言葉で言って」
もじゃもじゃのヒゲをくるくると指で巻きながら、うーんうーんとうなって、「暇つぶしだ」とじいやは言った。
「わしらは、変わり映えのない毎日を過ごしていて退屈だろう」
じいやは問いかける。
わたしは、うんと首が取れるくらいにうなずいた。
毎日毎日、右足を前に出して左足を前に出して歩いているけれど、周りの景色は変わらないものだから、いつもいつもあくびがとまらない。わたしが踏みしめている黒い土は、いつまでもどこまでも黒い。穴を掘っても黒い。ときどき、じいやが水分補給だと言って、いつも背中に背負っているスコップというやつで穴を掘る。表面の土はぱさぱさで、奥の土はじめじめと湿っているらしい。その、じめじめ土を布でおおって、ぎゅううと力をしぼるとお水さんがしたたり落ちる。この、お水さんのことを、じいやはお命と言ったりする。お命をいただきます。お命は大事にしなさい。お命はわしたちの一部だ……お水さんを飲み込むときのじいやは、こわれてしまったお人形さんみたいに、そんなことを言い続ける。
空も、真っ黒だ(じいやは藍色だと言うけれど、わたしにはあんまり違いが分からない)。でも、空は地面よりかは退屈しなくて、たまにお月さまが見えたり、ちかちかとお星さまが光っていたりする。わたしは地面より空を歩きたいとじいやに言ったら、「いつの日か」と言っていた。その日は、今のところまだ来ていない。
退屈な、毎日だ。
その退屈な毎日の、気を紛らわせるものがモノガタリだとじいやは言った。
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