雨の音は、まだ、やまない。

3/12
前へ
/12ページ
次へ
「モノガタリってなんなの」 「娯楽と言っていいのか。想像の産物というか」 「もっと簡単な言葉で言って」  もじゃもじゃのヒゲをくるくると指で巻きながら、うーんうーんとうなって、「暇つぶしだ」とじいやは言った。 「わしらは、変わり映えのない毎日を過ごしていて退屈だろう」  じいやは問いかける。  わたしは、うんと首が取れるくらいにうなずいた。  毎日毎日、右足を前に出して左足を前に出して歩いているけれど、周りの景色は変わらないものだから、いつもいつもあくびがとまらない。わたしが踏みしめている黒い土は、いつまでもどこまでも黒い。穴を掘っても黒い。ときどき、じいやが水分補給だと言って、いつも背中に背負っているスコップというやつで穴を掘る。表面の土はぱさぱさで、奥の土はじめじめと湿っているらしい。その、じめじめ土(・・・・)を布でおおって、ぎゅううと力をしぼるとお水さんがしたたり落ちる。この、お水さんのことを、じいやはお命と言ったりする。お命をいただきます。お命は大事にしなさい。お命はわしたちの一部だ……お水さんを飲み込むときのじいやは、こわれてしまったお人形さんみたいに、そんなことを言い続ける。  空も、真っ黒だ(じいやは藍色だと言うけれど、わたしにはあんまり違いが分からない)。でも、空は地面よりかは退屈しなくて、たまにお月さまが見えたり、ちかちかとお星さまが光っていたりする。わたしは地面より空を歩きたいとじいやに言ったら、「いつの日か」と言っていた。その日は、今のところまだ来ていない。    退屈な、毎日だ。  その退屈な毎日の、気を紛らわせるものがモノガタリだとじいやは言った。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加