第1話 第1幕:カシオ・赤トンボ・ミットナー 最後の戦い

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第1話 第1幕:カシオ・赤トンボ・ミットナー 最後の戦い

 昔から、森というものは異界であった。  僕達の生活圏から隔絶され、天を突くような巨大な古代遺跡が立ち並び、魔獣達の住む森は、教会の統治の及ばない世界。  人の理の通じない現世と異なる世界だ。  森は神の加護の下に生きる人にとっては地獄のような場所であり、神に従わぬ者にとっては最後の逃げ場となる。  だから僕達は森の中へ逃げた。例え地獄でも、逃げる場所があるのは幸運なことだ。  僕達のように神に愛されなかった人間の気持ちなどは、愛されることが当然と思う人達には分からないだろう。僕はこの地獄を愛している。 「ドルン卿、この道を降れば教会領から抜けます。領境に北領の魔獣主はもういないので、ご安心ください」  僕は茂みに埋もれた小さな道を指さして振り返った。 「そうか」  背の高い若者は涼しい顔で一言だけ返事を寄越し、会話はそれで終わった。彼はもうすぐ逃亡に成功するというのに、喜ぶ素振りも、焦る様子もない。その若者の後ろには、ボロボロの服や皮の胸当てをつけた20名程の列が続いている。彼らは皆、一様に気を張り詰めた顔をしていた。     
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