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僕らは今、教会領からドルン領へと脱出する為に、魔獣の徘徊する森を進んでいる。僕の真後ろを歩く若者が、現ドルン領主だ。
森で静かに暮らしていた僕が、この戦いに巻き込まれて半年が過ぎた。
若きドルン領の新領主は、教会の支配を拒否した。それに対して教会は、ドルン卿の従兄弟を擁立して内部から反乱を起こさせ、教会軍をドルン領に派遣した。
僕はこの領主に恩があったので、仲間と一緒に色々と彼を助け、今は彼を教会領の支配地域から逃亡させようとしている。
彼をドルン領へ逃がせば、僕の役目もお終いだ。先日の戦いで、ドルン領内で反乱を起こした首謀者は行方不明になった。侵攻の足がかりを失った教会軍は、今のドルン領へはうかつに手を出せない。
若い領主は必要のないことは何も言わない人物だったが、僕の案内を疑いもせずについてくる。
彼の付き人は、こんな事態になっても逃げないくらいだから、忠誠心が厚く、文句の1つも言わずに黙々と行進する。このままなら、順調にドルン領へ脱出できそうだと、その時の僕は考えていた。
その考えは甘かった。
「動くな」
もうすぐ森を抜けるというところで、神の言葉が聞こえた。
神の言葉は絶対。それが神の加護の下で生きる者の義務だ。だから、僕達は言われた通り、動きを止める。
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