第1話 第1幕:カシオ・赤トンボ・ミットナー 最後の戦い

3/14
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/115ページ
 僕は指を動かすことも、顔の向きを変えることも、足を前に出すことも、しゃべることもできない。  僕だけではなく、全員がそうなっている。中には不安定な姿勢で動きが止まり、立っていられずに地面に倒れて固まっている者もいる。 「まったく、貴様らときたら」  そんな僕らの前に、心底呆れたようなボヤキと共に、木陰からヌゥと2メートル近い白髪の大男が姿を表わした。  老人の顔をしているが、その筋肉質の体は若々しく、衣服の上からでも胸筋の膨らみが分かるほどだった。   「念のために、ワシだけでも残って良かったわい。これも神の思し召しであるな。……さて、どいつがドルン卿だ?」  大男は棒立ちになったドルン卿や従者に無防備に近づき、自分の顔を彼らの顔に近づけてジロジロと検分を始める。誰も一歩も動かずに、見られるがままになっている。   大男は、順に調べながら、僕の前にもやって来る。   「おお、カシオではないか。久しいな」  大男は僕の顔を見るなり、懐かしそうな顔をした。  後一歩というところで、よりによって、一番会いたくない人間に見つかってしまった。   「アンナは死んだか? あれもバカな女だな」  僕は大事な人を侮辱され、指一本動かせない状況で大男を睨みつける。       
/115ページ

最初のコメントを投稿しよう!