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僕は指を動かすことも、顔の向きを変えることも、足を前に出すことも、しゃべることもできない。
僕だけではなく、全員がそうなっている。中には不安定な姿勢で動きが止まり、立っていられずに地面に倒れて固まっている者もいる。
「まったく、貴様らときたら」
そんな僕らの前に、心底呆れたようなボヤキと共に、木陰からヌゥと2メートル近い白髪の大男が姿を表わした。
老人の顔をしているが、その筋肉質の体は若々しく、衣服の上からでも胸筋の膨らみが分かるほどだった。
「念のために、ワシだけでも残って良かったわい。これも神の思し召しであるな。……さて、どいつがドルン卿だ?」
大男は棒立ちになったドルン卿や従者に無防備に近づき、自分の顔を彼らの顔に近づけてジロジロと検分を始める。誰も一歩も動かずに、見られるがままになっている。
大男は、順に調べながら、僕の前にもやって来る。
「おお、カシオではないか。久しいな」
大男は僕の顔を見るなり、懐かしそうな顔をした。
後一歩というところで、よりによって、一番会いたくない人間に見つかってしまった。
「アンナは死んだか? あれもバカな女だな」
僕は大事な人を侮辱され、指一本動かせない状況で大男を睨みつける。
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