第1話 走る彼はあの子の使い走り

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「えーっと、すみません。今立て込んでまして……」 「ああん? 今なんつった?」 「今は色んな人から頼み事をされてまして、急いでるんです」 出来る限り低姿勢で言ってみるもののーー 「おいおいおい、他の奴の頼みは聞けて俺らのお使いは聞けねぇってかぁ!? おめぇどうやら自分の立場ってやつをわかってねぇようだなぁ!」 卵焼き先輩が怒鳴り上げる。 後ろの二人はニタニタと気味の悪い笑みを浮かべて僕を見ていた。 多分、僕がビビっていると思っているのだろう。正直、こうしている間にどんどん時間が過ぎている点について怯えというか焦燥感に近いものは感じてはいる。 でもそれは先輩たちにではなく、八重ちゃんを待たせてしまうかもしれないという焦りだ。 それに、良くも悪くも僕はこういった人たちに慣れてしまっている節がある。 本当に恐ろしいのはこうして声を荒げたりして威嚇するような輩ではない。 目、あるいは空気で威圧してくるような人たちの方がよっぽど身の危険を感じる。細胞や遺伝子レベルで危険を告げる存在というのが世の中には居たりする。 なので、ぶっちゃけてしまうと何の脅威も感じないのが本当だ。 そして、僕が立場をわかっていないのだとしたら、貴方たちは人にものを頼む態度というのをわかってない。 パシリだって人間なんだぞ。ってそうじゃないか。 けど、それを言うならこの礼儀知らずの恥知らず先輩たちも人間だ。応えられることなら引き受けてあげたい。 例えそれが不良と呼ばれる人種であってもーーだ。 僕の走りを必要としてる人が居るなら走る。 それが僕、道標駆だ。
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