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ふぅ、と息を吐いて立ち上がる。
ずっとしゃがみながら竹藪を掻き分けていたせいで、体のあちこちが悲鳴をあげているのをひしひしと感じつつ秋だというのに額から流れる汗をタオルで拭いた。
「千紘、休憩してないで早く手を動かして。時間無いんだから」
肩下まで伸びた黒髪を揺らし、お世辞にもセンスが良いとは言えないジャージを着た僕より高い長身。世間一般的に言うなればモデル体型の美人。という言葉で表現できる大学の先輩、日限山 莉央。
そんな先輩は眉を曲げ、ギロリという擬音が似合いそうな表情で僕を見てくる。だが状況も状況。切羽詰まっている中でそれ以上僕に文句を言う気はないようですぐに視線を戻した。
「それもそうですね」
僕も火に油を注がないくらいの返答をしながら腰をトントンと叩き、もう一度しゃがんで竹藪の中をガサガサと探し始める。
さっきから何を探しているのかというと、鍵を探していた。
別に鍵といっても、自宅の鍵を落としたとかそういう意味じゃない。じゃあ一体何の鍵なのか? そう聞かれるとこう答えるしかない。
相談された″謎″を解くために必要な鍵、と。
この五ヶ月ちょっと、僕が在籍する園芸サークルには様々な相談を受けてきた。別れたカップルがヨリを戻したいという相談から、犯罪解決に関する相談まで。
そして今回も、その相談を解決するための鍵を探している。
だが、空は少しずつ薄暗くなってきており、きっとそれは暗くなってしまったら見つからなくなってしまう。鍵を見つけるための制限時間が残りわずかであることを知らせていた。
もし見つからなかったら、一人の命が危ういことになる。どうしてこうなってしまったのか、そんな疑問が浮かんでくる。
でもそんなことを考えてる時じゃない。タイムリミットの日没まで時間もない。僕は気持ちを入れ直して竹藪に手を突っ込んだ。
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