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気持ちを入れ直したものの、数十分。いや体感的にそう感じるのであって実際はもう少し短い時間だと思う。いまだに鍵。目的のものを見つけることはできない。
「本当に見つかるのか……?」
「大丈夫だよ千紘」
僕自身は独り言のつもりだったんだけど不意に先輩が返答するので、サボっていませんアピールも兼ねて反射的に動きが止まっていた手で竹藪を掻き分ける。
そんな僕の手を先輩は掴み、もう片方の手であるものを手渡してきた。
「これは? あ、いやもしかして……」
「うん。見つけたんだ。見つけたんだよ。これが私たちの探してた目当てのもの」
可愛い。キュンとする。尊さで胸が痛い。そんな言葉とは無縁なほどにヘッタクソなウィンクをした先輩は首に巻いたタオルで汗を拭きながら立ち上がる。
「これで大丈夫。さぁ早くここを出て会いに行くよ」
スタスタと来た道を引き返して乗ってきた車の元へ急ぐ先輩。その後ろで目当てのものを鞄にしまった僕は小走りでついて行く。空はさっきより暗い。でも目的はクリアした。
あ、直に鞄にしまうのか、とか思うかもしれないがそこはそれほど急ぐ状況だということで納得してほしい。
さておき、これで今回の相談も無事に解決する。もう誰も危険な目に遭うことはない。そう考えると胸の奥に引っかかっていた不安が取れていくような気がした。
「それじゃあ……解決策を提示しに行きましょうか、先輩」
「うん、そうだね。行こ千紘」
僕が笑みを浮かべると、先輩も後ろを振り返って笑って頷く。
そして先輩は森の入り口近くに寄せて止めてある若葉マークが目立つ愛車の赤いカプチーノの鍵を開け、早々に乗り込む。僕も助手席に乗ってシートベルトを締める。
「法定速度ギリギリで飛ばすからね!」
「……安全運転でお願いします」
法定速度ギリギリって言葉を理解しているのか疑うほど急発進で車は走り出し、さっきまでいた森はどんどん離れていく。
椅子に背中を預けて安心などできない僕の脳内は走馬灯のように先輩とともに受けたいくつもの相談を思い返していた。
そしてこんな風に謎が隠れた相談が出てき始めたは僕がある事件に巻き込まれて、人生に一度あるか無いかくらいの体験をした翌月だった。
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