三月下旬

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 春休みはあと僅か、剣道部の稽古に休みはそれ程ない。  防具を付け竹刀を構えた俺の前には、同様の格好の、しかし頭一つ分背丈の小さな相手が隙の無い構えでこちらを見据えている。  俺は一つ息を吸い込むと、腹の底から吼えた――――――  正直、一目惚れだった。  入学してすぐ、部活紹介で壇上に上がった二年生の先輩、かなりの美人な彼女を一目見た瞬間に心臓が跳ねた。その日の放課後、真っ先に武道場に向かった。  同じ事を考えるライバルは多かった。だが、大会の成績が芳しくないらしい高校の部活の割にハードだった練習のせいでその多くは脱落していった。  先輩は素人目で見ても強かった、そして、防具の上からでも分かるほどその挙動は美しかった。自分で思うよりも純粋だったらしい俺は不純な理由で入部した自分が告白するのは申し訳なくなってしまった。事実、入部して何日か後に告白した連中は軒並みフラれていた、そいつらもいなくなったのは言うまでもない。  俺は、先輩から一本取れたら告白することに決めた。そうでもなければ先輩は自分を認めてくれないだろうし、俺自身も納得がいかなかっただろう。    初心者の、もっと言うとそれまでインドア派でロクに運動してこなかった俺は普通の体力トレーニングですら苦しかった、素振りで息切れした。だが、確固たる目的を持っていたからか、辞めるとは口が裂けても言わなかった。  夏休みまで先輩と竹刀を交えることは無かった。延々続く基礎トレーニングは多くの脱落者を出した。気付けば、一年生の数は初めと比べると明らかに少なくなっていた。  夏休み初日の稽古で初めて先輩の切り返しの相手をした、メチャクチャ速く、上手だった。ついて行くので精一杯な自分の相手をさせることが申し訳なかった。こちらから打ち込むのはもっと申し訳なかった。  毎日の稽古は相当に厳しく、また一年生がいなくなった。経験者も何人か辞めた。俺には、これだけやってどうして結果が残せないのかが分からなかった。三年生の多くは六月までに引退していた。  夏休みの終わりには人数もだいぶ減り、稽古に出ているのが十人以下というのもザラになった。先輩の相手をする機会も多くなり、先輩に打たれれば打たれる程、先輩の強さに心を折られかけた。
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