第1章 鬼王神社の宝玉

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 ── ── ── ──  とある東京の郊外に、中道商店街を中心に栄えているその小さな町はある。  その町は、商店街の外れの鎮守の森に建てられた、鬼王神社に見守られるようにして発展してきた。  中道商店街は、JRの駅前に近く、さほど高くない雑居ビルが整然と建ち並び、飲食店や衣服店、総菜屋や自転車屋といった個人商店が軒を連ね、小ぶりのスーパーマーケットと共存している活気ある商店街だ。その中心となるのが昔ながらのアーケード街と鬼王神社の表参道だが、今や町中が中道商店街と呼ばれ、範囲はものすごく広い。  この商店街が、バブル経済崩壊後の不景気にも負けず、シャッター商店街にならなかったのには理由がある。  鬼王神社の氏子総代であり、付近一帯の地主であり、町長であり、不動産屋を営む神馬(じんま)権三(ごんぞう)が、大型ショッピングセンターの参入を認めなかったのと、近くの駅には繁華街らしい繁華街がなかったので、名店と呼ばれる蕎麦屋や鰻屋、中華料理屋や居酒屋、おしゃれな各国の料理店などを積極的に誘致して安価で提供できるように工夫した。その結果、手軽な値段で味わえるグルメスポットとして、人が集まるようになったからだ。  また、神馬家は代々その土地の領主として、農家を手厚く保護してきた。  更には和紙の製造業や織物業、製糸業などの産業も積極的に誘致し、近代になってからは伝統業に加えて、アパレルや機器製造業などを誘致した経緯もある。  権三の代になってからは、早くから少子化に備えて、海外労働者も分け隔てなく奨励し、自社管轄のアパートに安く住まいを提供するなど、手を変え品を変え、町を発展させてきた 。
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