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その頃、幼稚園から自宅に戻った園長の神馬権三は庭にでると、鬼王神社の方角に向かって二礼して柏手を二度叩き、手を合わせて祈った。
──寝る前にするいつもの習慣である。
「あと1ヶ月半で夏祭りです。今年も元気いっぱいのお祭りにします。わしら氏子、そしてこの町の人々を、末永くお見守りくださるよう、よろしくお願いします」
鬼王神社の御神体は、この町に人が住むよりはるか昔にこの地に降り立った産土神だ。産土神はこの付近に魔物が寄り付かないように結界を張った。
その後人々が生活し社会が出来てくると、影になり表になり人間を導いた。
時には荒れ狂い全てを破壊し、時に豊作をもたらし、時には知恵を与え進化を促したのである。
その強大な力に、恐れおののた人間はこの産土神を敬い『鬼王様』と呼んだ。
そして、ある時光輝くソフトボール程の大きさの石球が土中から出てくると、それを御神体とし、この地に祀った。産土神はその御神体に入った。
それが鬼王神社の始まりである。
その後、人の自由意志に進化を委ね、神社の中で見守る事に徹した『鬼王様』は、結界を外す替わりに、とある一族の遺伝子に、この地を平和に導くように霊力を授けた。
それが、神馬一族の祖先である。
それ以来神馬一族は、争いのない健やかなる進化を導くべく、時には霊力を使い、この地を治める長として尽力する事となった。
──権三の祈りはいつも御神体に届く、神が宿っている鬼王神社の白い石球は、権三の思いに反応するが如く、眩い光を発した。
そして、権三が祈りを終え再び一礼すると光は消えた。
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