料理研究部の部外者兼コーチ

2/5
前へ
/20ページ
次へ
 俺ほど眉目秀麗という語に相応しい男はいまい。眉に限りなく近い(まなこ)には常に力が(みなぎ)っており、鼻は常に視界に映りこむほど高く、薄い口唇(こうしん)は常に微笑みを(たた)えている。ミケランジェロにでも作られたのかと勘ぐってしまうその美貌は、道を歩けば振り向かぬ者はいないほどである。呆けた顔で鏡を見ても男前であるから、(いよいよ)非の打ち所がない。母に感謝せねばなるまいて。  然れど、苦労がないと言えば嘘になる。  顔立ちが端正であればあるほど、才能潤沢な人間だと勘違いされやすいことはご存じであろうか。俺のようなザ・英彦(えいげん)と言わざるをえぬ相貌であると尚のこと。俺は高校の成績においては、(ほぼ)全て平均値程度だ。周囲を上回っている、と確固たる自信を持って明言できるのは、語彙と料理の腕前のみ。下手に語彙が豊富である故、ますます俺に対する勘違いが深まっていくことはいただけぬが、女子への褒め言葉の流麗さは誇りに思う。お蔭で俺は常に大人気沸騰中、何時でも何処でも誰とでも交際に漕ぎ着ける状況だ。だが(よわい)十七になった今猶(いまなお)、俺には想い人というものがいない。そのため俺は、如何なる相手とも交際までは踏み切れずにいた。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加