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車窓から
就職を機に毎日電車に乗るようになった。
毎日毎日、同じ山間の線路を列車は通る。その際、山の中に一本だけ、いつも揺れている木があるのが見えた。
風がまったく吹いていない日でも、他のひっそりと静まり返った木々の中でその木だけが揺れている。
きっとあの木には何かある。
さすがに確かめにこそいかないけれど、俺はずっとそう思っていた。そしてその考えは正しかった。
揺れる気を発見してからおよそ一年。何年か前に起きた殺人事件が解決し、ニュースを賑わわせたのだが、その被害者は俺の見つけた揺れる木の根元に埋められていたらしい。
被害者が見つかってよかった。犯人が捕まってよかった。ニュースを聞いた時は単純にそう思っていたけれど、翌日から、電車の窓外に見える光景は一変した。
山のあちこちで風もないのに木が揺れる。それも『自分を見つけろ』とばかりに激しく。
あの数だけ亡くなって埋められた人がいるのかな。だとしたら、匿名の通報とかした方がいいのかな。
車窓から外を見ながら、俺は今朝もそんなことを考えている。
車窓から…完
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