第二十八章 激情

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 涙でぼんやりとしていたけれど、雄大さんの微笑みが見えた。そして、抱きすくめられた。 「俺には、お前以上に価値のあるものなんて、考えられない」  雄大さんはいつも、私が欲しい言葉をくれる。  その言葉に、何度も救われた。  私を、想ってくれる人がいる――。  父親が誰だかわからず、母親からは疎まれ、祖父母からは蔑まれ、義父からは憐れまれた。  私を愛してくれる人なんて……いない。  ずっと、そう思っていた。  だから、昊輝と一緒に過ごした日々は、本当に幸せで、幸せ過ぎて怖いくらいだった。  その幸せを、桜が壊した――。 『私を置いて、お姉ちゃんだけ幸せになるの? それなら――――』  三年前の、桜の言葉は今も忘れない。一言一句。 『それなら、お義父さんのお金全部で口止めしてよ』  桜の狂気に満ちた笑顔も、忘れない。 『犯罪者の姉、になんてなりたくないでしょう?』  あの時、決めた。  絶対、真実は教えてやらない――。  こんな、醜い私を見せたくない。  雄大さんにだけは、絶対に。 「どうして、桜に真実(ほんとう)のことを言わないと思う?」と、雄大さんの腕の中で呟いた。 「あの子を苦しめたいからよ」 「え?」 「ずっと、憎かったの……。愛されて生まれてきたあの子が。可愛くて、甘え上手で、誰からも愛されるあの子が憎かったの。私が欲しいもの、全部持ってるあの子が恨めしかった。その上、禁断の愛なんかに溺れて、私の結婚まで壊した! だから、絶対に教えてやらないの。一生、許されない恋に苦しめばいい!!」  私は両手を雄大さんの胸に当て、思いっきり突き放した。  私は、雄大さんの足元に視線を落とした。顔を上げて、雄大さんの顔を見る勇気はなかった。
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