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涙でぼんやりとしていたけれど、雄大さんの微笑みが見えた。そして、抱きすくめられた。
「俺には、お前以上に価値のあるものなんて、考えられない」
雄大さんはいつも、私が欲しい言葉をくれる。
その言葉に、何度も救われた。
私を、想ってくれる人がいる――。
父親が誰だかわからず、母親からは疎まれ、祖父母からは蔑まれ、義父からは憐れまれた。
私を愛してくれる人なんて……いない。
ずっと、そう思っていた。
だから、昊輝と一緒に過ごした日々は、本当に幸せで、幸せ過ぎて怖いくらいだった。
その幸せを、桜が壊した――。
『私を置いて、お姉ちゃんだけ幸せになるの? それなら――――』
三年前の、桜の言葉は今も忘れない。一言一句。
『それなら、お義父さんのお金全部で口止めしてよ』
桜の狂気に満ちた笑顔も、忘れない。
『犯罪者の姉、になんてなりたくないでしょう?』
あの時、決めた。
絶対、真実は教えてやらない――。
こんな、醜い私を見せたくない。
雄大さんにだけは、絶対に。
「どうして、桜に真実のことを言わないと思う?」と、雄大さんの腕の中で呟いた。
「あの子を苦しめたいからよ」
「え?」
「ずっと、憎かったの……。愛されて生まれてきたあの子が。可愛くて、甘え上手で、誰からも愛されるあの子が憎かったの。私が欲しいもの、全部持ってるあの子が恨めしかった。その上、禁断の愛なんかに溺れて、私の結婚まで壊した! だから、絶対に教えてやらないの。一生、許されない恋に苦しめばいい!!」
私は両手を雄大さんの胸に当て、思いっきり突き放した。
私は、雄大さんの足元に視線を落とした。顔を上げて、雄大さんの顔を見る勇気はなかった。
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