第二十八章 激情

14/14
前へ
/551ページ
次へ
「私は、雄大さんが思っているような女じゃない。黛が邪魔だったのも、立波リゾートが欲しかったのも、結局は桜への嫉妬や憎しみで――」 「お義父さんを殺したのは、桜か?」 「――!」 「お前が守りたいのは、『それ』か?」 「…………」  頭上から、雄大さんのため息が聞こえた。 「俺は、そうは思ってない。けど、俺も高津も、黛も知らない『何か』があるだろ。その『何か』のために、お前は桜に那須川勲が実の父親で、亨とは血縁関係にないことを話せないでいる。……違うか?」  記憶が蘇る。 『どうしてお姉ちゃんは良くて私はダメなのよ!』  半狂乱の桜の叫び声。 『私、知ってるんだから! お義父さんとお姉ちゃんの関係』  昊輝は警察に電話するため、外に出ていた。 『パパが悪いのよ! お金をくれないから』  お義父さんの死も、桜の叫びも、どこか現実味がなかった。ほんの数十分前まで、義父への挨拶で緊張する昊輝を茶化したりしていた。 それが、どうしてこんなことに――……! 『どうしてお姉ちゃんは良くて私はダメなのよ!』  言えるはずがない。  誰にも。  たとえ雄大さんにも。 「『何か』あったとしても、貴方には関係ないわ」  自分でも驚いた。  雄大さんの目を真っ直ぐに見ていられる、自分に。 「もう、私に共犯者は必要ない」  雄大さんもまた、私の目を真っ直ぐに見返して言った。 「わかった――」  部屋を出て行く雄大さんの背中を、私は瞬きをせずに見送った。
/551ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3868人が本棚に入れています
本棚に追加