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「私は、雄大さんが思っているような女じゃない。黛が邪魔だったのも、立波リゾートが欲しかったのも、結局は桜への嫉妬や憎しみで――」
「お義父さんを殺したのは、桜か?」
「――!」
「お前が守りたいのは、『それ』か?」
「…………」
頭上から、雄大さんのため息が聞こえた。
「俺は、そうは思ってない。けど、俺も高津も、黛も知らない『何か』があるだろ。その『何か』のために、お前は桜に那須川勲が実の父親で、亨とは血縁関係にないことを話せないでいる。……違うか?」
記憶が蘇る。
『どうしてお姉ちゃんは良くて私はダメなのよ!』
半狂乱の桜の叫び声。
『私、知ってるんだから! お義父さんとお姉ちゃんの関係』
昊輝は警察に電話するため、外に出ていた。
『パパが悪いのよ! お金をくれないから』
お義父さんの死も、桜の叫びも、どこか現実味がなかった。ほんの数十分前まで、義父への挨拶で緊張する昊輝を茶化したりしていた。
それが、どうしてこんなことに――……!
『どうしてお姉ちゃんは良くて私はダメなのよ!』
言えるはずがない。
誰にも。
たとえ雄大さんにも。
「『何か』あったとしても、貴方には関係ないわ」
自分でも驚いた。
雄大さんの目を真っ直ぐに見ていられる、自分に。
「もう、私に共犯者は必要ない」
雄大さんもまた、私の目を真っ直ぐに見返して言った。
「わかった――」
部屋を出て行く雄大さんの背中を、私は瞬きをせずに見送った。
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