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「つまり、私をそばに置くか、路頭に迷わせるかは、専務次第ということです」
馨は飛び跳ねるように、三歩後退った。
「どうして、こんなこと――」
「敬愛する専務のお力になれたらと――」
「気持ち悪い話し方しないで!」
本気で気持ち悪そうだ。
「ひっでぇな。優秀な秘書らしく、お行儀良くしてやってんのに」
「どうして立波リゾートにいるの?」
「転職したから」
「転職――って……」
「黛のことで社内がバタついて、なんか色々面倒になったから辞めたんだよ。で、専務秘書の募集に応募したら――」
「募集に応募!? 会社を辞めたのが私のせいだって、会長と社長を脅したんでしょ!」
馨の、いつもの調子に気持ちが弾む。
「人聞き悪いことを言うなよ。俺が立波リゾートに来ることはだいぶ前から決まってたんだよ。それなのに、予定してた役職をお前に横取りされて、仕方ないから秘書として――」
「そんなこと、聞いてない!」
「言ってなかったからな」
馨と一緒に結婚の挨拶をした日から、俺は会長と社長と連絡を取っていた。
絶対に両親を説得するからと、俺が立波リゾートの社長となるべく、段取りを決めていた。
「ちょっとは喜べよ。こんな頼りになる秘書なんて、そういないぞ? 超がつくほど優秀で、イケメンで、その上身体の相性も文句なしだ」
「余計なのよ! イケメンで身体の相性がいい必要はないの」
「じゃあ、クビにするか!?」
馨がグッと口をつぐんだ。
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