3867人が本棚に入れています
本棚に追加
「で? どうすんだよ。こっちは三週間ぶりに惚れた女を前にして、我慢の限界に挑戦中なんだよ。俺が選ばせてやってるうちに答えないと、問答無用で――」
「なんでこんなことするのよ! 言ったでしょ!? 私にはもう、共犯者は必要ない!!」
「わかってるよ。俺たちはもう、共犯者じゃない」
「だったら――」
「だから、だろ! こんなことをしてまでお前が欲しいって、なぜわからない!?」
息がかかる距離で大声を出されて、馨が委縮する。
怖がらせたいわけじゃない。
俺はデスクから手を放し、三歩下がった。
「安心しろ。上司と部下である限り、お前が求めなければ、俺はお前には触れない」
自分を戒めるように、言った。
本当は、黒のパンツスーツを引きちぎって、素肌に触れたい。
だが、そんなことをしても、馨を取り戻せない。
「俺はお前に愛してると言った。あとは、お前次第だ」
馨が、自分の気持ちに正直にならなければ、意味がない。
どんなに馨が欲しくても、無理やりに抱いて、また拒絶の言葉を投げられるのならば意味がない。
「デスクでのセックスをお望みじゃないのなら、社内を案内させていただきますが? 専務」
俺は背筋を伸ばして言った。仕事用の顔で。
馨はジャケットの襟を正し、同じく仕事用の顔に切り替えた。
「お願いします」
「……セックス?」
「案内!」
「冗談ですよ」
こんな感じで、俺と馨は『上司と部下』になった。
最初のコメントを投稿しよう!