第二十九章 上司と部下

8/16
前へ
/551ページ
次へ
 専務と秘書の一日目は、社内の案内と各部署への挨拶、専務職の具体的な仕事内容の説明、社の規律や定例会議の日程などの説明、で終わった。  二日目は、取引先への挨拶回り。  三日目は、主要株主への挨拶回り。  四日目は、都合が合わなかった取引先と株主への挨拶回り。  五日目は重役会議と、会長と社長とのランチミーティングに、親睦会と称した重役たちとの飲み会。  覚えることの多さに、馨はぐったりしていたが、俺は一日中堂々と彼女と一緒にいられて満足だった。  素直に俺を頼ってくれるのも、嬉しかった。  毎朝七時に馨をマンションまで迎えに行き、朝飯を食いながら一日の予定の確認をした。仕事が終わればマンションまで送っていく。  約束通り、俺が馨に触れることはなかったが、日に日に目が合う回数が増えていることで、彼女が根負けするのに時間はかからないと、確信していた。  馨の新しい住まいは、立波リゾート本社ビルから車で十分ほどの場所にある、高級分譲マンションで、俺のマンションまで車で十五分の距離。  馨が住んでいると知って、マンションの間取り図を見た。二十畳のリビングに、十五畳の寝室には三畳のウォークインクローゼットがついている。十二畳の部屋が二つと、六畳のバスルーム。  馨一人で暮らすには広すぎる。  高津から、馨が立波リゾートを継ぐ気だと聞いた時は、驚いた。同時に、納得も出来た。
/551ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3867人が本棚に入れています
本棚に追加