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驚いたのは、馨が立波リゾートに興味がないことを知っていたから。
納得したのは、そうすることがすべてを丸く収める方法だから。
重役たちとの飲み会の後、帰る車の中で馨は眠ってしまった。俺がちょっと目を離した隙に、常務に日本酒を勧められて飲んでしまったから。
何とか最後まで目を開けていられたのは、緊張感とキンキンに冷えたミネラルウォーターのお陰だろう。
「着きましたよ、専務」
起きるはずがないことをわかっていて、俺は一応声を掛けた。
正面のエントランスをぐるっと一周して、地下駐車場に向かう。入り口の前で停車し、馨のバッグを物色してカードキーを探し出した。馨の部屋の番号が書かれたスペースに車を停め、彼女と彼女のバッグを抱えて降りた。
久し振りの馨の感触。
見た目にも気づいていたが、痩せた。
俺が怪我をする前、もう二か月も前になるが、その時からどんどん痩せていく。
一緒にいる間はきちんと食事を取らせているが、以前ほどの量は食べていないし、なにより、食べていても幸せそうではない。
俺はセキュリティのカードリーダーにカードキーを滑らせた。四桁のパスワードが必要らしい。そこまでは、知らなかった。
「馨、パスワードは?」
「……ん」
「マンションのパスワード」
「たん……じょ……び」
誕生日?
そんな簡単なパスワードでいいのか、と思いながら、『0923』を押した。扉は開かず、ディスプレイには『Error』の文字。
「馨、本当に誕生日か?」
「うん……」
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