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念のために、もう一度『0923』を押す。やはり、『Error』。
この、酔っ払いが。
俺はため息をつくと、馨の寝顔を眺め、俺の家に連れて帰ろうかと考えた。久し振りに、あのベッドで馨を抱いて眠りたい。
なんなら、また縛ってもらっても――。
扉の向こうのコンシェルジュが、明らかに怪訝な表情で俺を見ていることに気がつき、不埒な妄想を吹き飛ばした。
そして、何の気なしにパスワードを入力した。本当に、何の気なしに。
それでも開かなければ、家に連れて行くつもりで。
けれど、扉は、開いた。
パスワードは、『1010』。
俺の誕生日……。
俺はキスしたい衝動を堪えて、馨を抱え直した。コンシェルジュに自分が馨の秘書であることを名乗り、名刺を渡した。
馨の部屋は驚くほど簡素だった。
家具家電は全て元のアパートで使っていた物で、真新しいものはない。その上、本来は寝室にあるべきベッドやタンスまでもリビングに置かれていた。
俺は馨をベッドに横たえると、他の部屋を覗いた。
ドアを開けると、冷たい空気が頬を撫でた。寝室にも他の二部屋にも、カーテンすらついていない。
台所も使われた様子はなくて、冷蔵庫にはペットボトルのミネラルウォーターとウーロン茶、冷凍庫にはレンジで温めるだけのパスタが三袋入っているだけだった。
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