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俺と暮らしていた時、馨は色々な料理を作ってくれた。数回しか行かなかったが、アパートの台所も調理道具や調味料が並んでいた。
だが、マンションでは鍋もフライパンも引き出しに置かれたまま、使われている様子はない。
愕然とした。
このままじゃ、馨が壊れてしまう――!
俺はテーブルの上のカードキーを手に取ると、部屋を飛び出した。
自分のマンションに帰ると、三日分の着替えと身の回りのものをスーツケースに詰め込んだ。冷蔵庫の中身と調味料なんかを袋に入れ、それもスーツケースに押し込んだ。
少し前まで馨の荷物を入れていた部屋のクローゼットから客用布団を引っ張り出し、車に積み、部屋の暖房や不必要なコンセントを抜いて、馨の元へ戻った。
コンシェルジュは俺の行動を怪しんでいたが、何も言わなかった。
俺が慌ただしく出入りしているのにも全く気がつかず、馨は熟睡していた。
俺は空いている一部屋に荷物を入れ、布団を敷いた。さすがに勝手に風呂に入るのはマズいと思い、今夜はこのまま眠ることにした。
六時間後。
カーテンのない部屋は寝坊するには不向きで、神々しい日差しで目を覚ました。
午前六時。
物音はしない。
俺は顔を洗って髭を剃ると、台所に立った。
十五分ほどして、リビングで物音がした。カウンターキッチンだから、目を覚ました馨には俺の姿が見えたはず。だが、俺が顔を上げた時には、さっきまで仰向けで眠っていた馨は頭まですっぽりと布団をかぶっていた。
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