第二十九章 上司と部下

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「ちゃんと自炊できる余裕が出来たら、出て行くから」  俺は、心にもないことを言った。  四六時中一緒にいたら、馨も観念して俺を受け入れるのではないか、と思わなかったわけではない。 「職場にも自分の立場にも慣れてないし、憶えることも多くて大変だろ。落ち着くまで、俺を利用しとけ」  これは、本心。  疲労やストレスでボロボロになっていく馨を放ってはおけない。  チン、とトースターのタイマーが止まった。 「あ、パンが焼けたから、飯食おうぜ」  馨は動かない。  パンとヨーグルトをテーブルに持って来て、俺はブルーベリージャムを自分のパンに塗った。 「飯食うのとセックス、どっちがいい?」   馨は不機嫌そうにのっそりと動き出して、俺の正面に座った。 「そんなに嫌か、俺とセックスするの」  俺もまた不機嫌さを隠さずに、言った。食パンを一口食べる。 「いただきます」  馨はイチゴジャムをパンに塗って、ブルーベリージャムをヨーグルトにかけた。  セックスが脅し文句になりつつあるのは納得いかなかったが、とりあえず、今日は幸せそうにパンにかじりつく馨を見られたから、良しとした。
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