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「ちゃんと自炊できる余裕が出来たら、出て行くから」
俺は、心にもないことを言った。
四六時中一緒にいたら、馨も観念して俺を受け入れるのではないか、と思わなかったわけではない。
「職場にも自分の立場にも慣れてないし、憶えることも多くて大変だろ。落ち着くまで、俺を利用しとけ」
これは、本心。
疲労やストレスでボロボロになっていく馨を放ってはおけない。
チン、とトースターのタイマーが止まった。
「あ、パンが焼けたから、飯食おうぜ」
馨は動かない。
パンとヨーグルトをテーブルに持って来て、俺はブルーベリージャムを自分のパンに塗った。
「飯食うのとセックス、どっちがいい?」
馨は不機嫌そうにのっそりと動き出して、俺の正面に座った。
「そんなに嫌か、俺とセックスするの」
俺もまた不機嫌さを隠さずに、言った。食パンを一口食べる。
「いただきます」
馨はイチゴジャムをパンに塗って、ブルーベリージャムをヨーグルトにかけた。
セックスが脅し文句になりつつあるのは納得いかなかったが、とりあえず、今日は幸せそうにパンにかじりつく馨を見られたから、良しとした。
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