第二十九章 上司と部下

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 専務と秘書になって三週間が過ぎ、同居生活が始まって二週間が過ぎた。  馨は俺の監督下で、しっかり食べてしっかり眠って、少しふっくらしてきた。  逆に、俺は触れられる距離に居ながら触れられないストレスと禁欲生活に、悶々とした夜を過ごすようになっていた。  寝ても覚めても、馨の事ばかり。  それでも、会社では硬い馨の表情が、俺の前では和らぐのが、嬉しかった。 「本当に一人で大丈夫か?」  ピザを頬張りながら、馨は頷いた。  馨のリクエストでクアトロフォルマッジとベーコン&ポテトピザ。  二十時を過ぎてピザを食べたがるなんて、馨らしい。  明日の夜、取引先の創業記念パーティーがあって、馨は副社長の代理として出席する。社長も一緒に。だが、秘書は断られた。  専務になってから、馨が一人で人前に出るのは初めてだった。  俺は娘を初めての外泊に送り出すような気分で、心配しかなかった。たった三時間程度のパーティーなのに。  我ながら、過保護だと思う。 「社長も一緒だし、大丈夫」  元々、馨は優秀な部下だった。仕事は早くて正確だし、機転もきく。  馨と付き合いだしてからの目まぐるしい状況の変化で、俺が何かと過剰反応しているだけだ。それは、自覚している。  だから、明日のパーティーも、専務として送り出す分にはあまり心配していない。心配なのは、馨が公に『立波リゾートの後継者』として認められてしまうこと。
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