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本当に馨が立波リゾートの社長になってしまったら、俺の社会的地位はどうやっても馨より下。
夫が妻の部下、ってのは避けたい……。
馨のそばにいるための苦渋の決断だったとはいえ、一生秘書で終わる気はなかった。
そんな俺の気持ちなど露知らず、馨は大胆に肩を出した薄い赤のロングドレスにショールという格好で、パーティーに出かけて行った。
俺のためにドレスアップしたことないくせに……。
欲求不満のせいか、いじけ癖がついてしまった。
帰りは社長が送り届けてくれることになっているから、俺は一人寂しくマンションに帰った。
ふと、オートロックの扉の前に立っている女性が目に入った。どこか、見覚えがあるような気がしたが、二十歳になるかならないかの年頃の女性に知り合いはいなかった。友達か誰かを待っているのだろう。
このマンションには、富裕層の家族も暮らしている。
そう思って、パスワードを入力しようとした時、ハッとした。女性の顔を正面から見て、確信を持った。
「桜……ちゃん!?」
見覚えがあったのは、馨から見せてもらった写メで、だ。
見せられた写メでは制服を着ていて、髪も黒く、化粧もしていなかった。
だが、目の前の桜は、ピンクのワンピースを着て、茶色く長い髪は毛先がクルクルと巻かれていて、化粧もしていた。唇が艶々輝いている。今日でさえ、馨はこんなに口紅を塗っていなかった。
絶対キスしたくない、な……。
不謹慎だが、正直な感想だった。
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