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「槇田雄大さん、ですか?」
桜の声は馨より細くて高くて、少し甘ったるい話し方だった。
「那須川桜です」
桜はゆっくりとお辞儀をした。
「お姉ちゃんに会わせてください」
随分と大人びているな、と思った。
顔つきもそうだが、自分の倍ほどの年の男に対して全く物怖じしない話し方や目つき、が。
『桜の何がそんなに怖いんだ』と黛に聞いた時、あいつは『会えばわかる』と言った。
具体的に『どこが』とは言えないけれど、一筋縄ではいかない女なのは直感でわかる。
腹違いとは言え兄妹だと知っていながら恋人となり、その恋人のために一回りも年上の男と婚約しながら、恋人を留学先にまで呼び寄せるような女だ。
「馨は仕事中だよ」
「なら――」と、馨が留守であることを知っているかのように、桜は次の言葉を発した。
「お義兄さんが私の話を聞いてください」
『聞いてもらえますか?』ではなく『聞いてください』と言うあたりが馨に似ているな、と思った。
「今日はもう遅いから、明日にしよう。馨も一緒に」
桜はクスッと笑って、言った。
「賢也くんが敵わないはずですね」
俺を見上げた桜の目に、ゾクッと背筋が寒くなった。
殺意すら覚える、冷たい目。
「お姉ちゃんの秘密を買ってください」
そう言って、桜は俺の胸に手を当てた。
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