第三十章 三つの願いとたった一つの許し

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 得意気に姉の『秘密』を暴露して、桜は帰って行った。携帯電話の番号のメモを残して。 『五千万、急いでね』と言い残して。  馨は最後まで床を見つめたまま、泣くことも喚くこともせずに、ただじっと耐えていた。 「説明、しろよ」  俺はソファに身を投げ出し、言った。  馨はまだ、床を見つめたまま。  桜の話は、こうだ。  母親が亡くなった後、馨がまだ家を出る前、勲が金の入った封筒を馨に渡しているところを、見たという。馨は封筒を受け取り、中の金を確認し、服を脱いだ。  だから、馨は勲の愛人だった。 「馨」  彼女の肩がビクッと跳ねて、それからゆっくりと顔を上げた。泣いているわけではない。ただ、その目には絶望が滲んでいた。 「俺は、お前が勲の愛人だったなんて、信じてない」 「え……?」 「母親が亡くなって、家を出るまでってことは、お前は大学生の頃か? その頃、桜はまだ小学生だろ。そんなガキの話、しかもそんな昔の話、信じられるかよ」  そうだ。  姉の恋人に跨るような女の話なんか、信じられるわけがない。だが、馨が『嘘だ』と言わないあたり、全てが嘘だとも思えなかった。 「仮に、だ。仮に桜の話が本当で、お前が勲の愛人だったとしても、俺には大した問題じゃない」 「……え……?」  俺は立ちあがり、馨の前に膝をついた。彼女を抱き上げ、ベッドに座らせる。ショールを解き、ベッドの上のパーカーを羽織らせた。  馨の両手を握りしめた。 「大事なのは、現在(いま)、俺の目の前にいる、馨だから。過去に誰の恋人でも、誰の愛人でも、現在(いま)の馨が俺のものなら、それでいい」
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