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「ご安心ください!!
ここで裁判をお待ちいただくまでの間、皆さまには天国での生活を体験していただきます。衣食住はこちらで保障致します。汗水垂らして働かなくてもいいのです!! 娯楽ももちろんございます。裁判までの束の間の極楽をお楽しみください!!」
係員の男性のその言葉に、周囲のあちこちから安堵の声が聞こえた。私はというと、そんな上手い話があるのかなと疑いの気持ちが少なからずあった。そういう疑心暗鬼の人もいるという空気を察したのか、係員の男性は更に続けた。
「そんな上手い話とお疑いの皆さまもご安心ください。ここでは嘘は御法度。いくら私でも嘘をつけば閻魔様に舌を抜かれてしまいますので。
……あ、ここは笑うところでーす」
辺りから堪えたような失笑が漏れた。とりあえず、私も笑った。確かに、ここでは嘘をついてはいけないのだろうし、信用してもいいのかもしれない。
「では皆さま、ご安心いただけましたらこれからお配りする“裁判待ちの手引き”をご覧ください。今後の日程やここでの生活の仕方が全て記載されています。受け取られましたら、解散していただいて結構です。
もしご質問があれば、手引きに記載のフリーダイヤルにお電話ください。携帯電話は各人の宿舎にご用意してますので」
解散していいと言われ、皆わらわらと会議室から出て行った。ここでは、面倒なことや争いごとは無用なのかもしれない。
何せ、“死”というものがない。私たちはもう死に終えている訳で、残された道は天国か地獄しかない。それを待つ間に極楽があるというのなら、抗う必要などどこにもないのだ。
しかし、裁判待ちの手引きの最後には、一つ注意事項が書かれていた。
『素行の悪い方は裁判を待たずして地獄、もしくは転生不可の全くの“無”に帰しますのでご注意を』
どうやらあの世でも犯罪やらが全く何もないということはないらしいが、ここまで脅しを掛けられてリスクを犯す人はほぼいないであろう。
働かなくたっていい。ただ何も考えずに過ごしていれば裁判の日がやってくる。それなら、大人しくしていればいい。
誰だって、少しでも天国に近いところに行きたいのだろうし。
私は、席から立ち上がれぬまま、ふぅと溜め息を吐いた。
ここでは何も考えなくてもいいのに、私はずっと頭の中をもたげていることがある。
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