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「どうしたの、本田さん」
優しく微笑むルイスの目は、心配するように細められている。
「……ルイスさんは、私が死んだ理由を知っているんでしょ?」
女性たちの陰口で知った。人事部の人は、自分以外の人たちの死んだ理由を知っている。
「……それは、僕が人事部だから?」
「ええ。知っているなら教えて欲しいの」
ルイスは、私の死んだ理由をどう思っているのか。
軽蔑? それとも同情?
ここでは嘘をつけないのだから、ルイスの口から真実を聞きたい。
もし、ルイスが私の死んだ理由に負の感情を持っているならば、きっともう一緒にはいられない。自分自身でさえも、自分の生前の行動が招いた死にざまを受け入れることができないのだから。
「……それは、死んでも教えない」
ルイスの言葉に私は目を見開いた。ルイスの真剣なブルーの瞳は、私を惹き付けて離さない。
「知れば、君は自分を責める。自ら地獄や消滅を選ぶかもしれない。僕は、そんなの嫌だ」
ルイスの言うことは当たっている。死んだ理由を知ってから、私は消えてしまいたかった。
「……本田さん。今、僕たちはこの世を生きている。
あの世で死んだ理由なんて、大したことじゃないと思わないか? 」
ルイスは、出会ったときとは全く違うことを言ってきた。
死に方に未練があるから死んだ理由を知りたがるのだと、自分も死んだ理由が知りたいから働いているのだと、そう言っていたではないか。
私が何も言えずにいると、ルイスは静かに笑った。
「僕は君と出会ってから、死んだ理由などどうでも良くなっていた」
ああ、やっぱり私はこの笑顔が堪らなく好きなのだ。
ルイスの綺麗な瞳が笑顔で細められるたび、私は信じられないくらい胸が締め付けられるのだ。
「……じゃあ、なぜここで働くの?」
「働くことを望めば、裁判が後回しになるから。
だって、ここには本田さんがいる」
鼻の奥がツンと痛んだ。
今、私は大好きなルイスから一番もらいたい台詞をもらっている。
「誰よりも優しい本田さんのことが好きだ。
この天国と地獄の狭間で、一緒に生きていかないか」
私は、心から笑った。
すると、ルイスが私を強く抱き締めてくれた。
「……その笑顔をずっと見たかった。
だから僕は、君が死んだ理由は死んでも教えない」
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