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「げ」
バケツをひっくり返したかのような激しい雨が私の体を打つ。
横断歩道を渡らずに、咄嗟に目に入ってきた公園のほうへと進路を変える。幸い近くに東屋があったので自転車を止め、とりあえずそこに避難することにした。
年季の入った東屋だったが、雨宿りするには十分だ。
通り雨だといいな、なんていう淡い期待とは裏腹にどんどん雨足は強くなっていく。
湿ったストッキングが肌に吸い付いて気持ちが悪い。
ハンカチで顔をつたう雫を拭っていると、バシャバシャと盛大に水溜りを蹴る足音が聞こえてきた。
「ったく、なんだってこんな急に降るかね」
小さく舌打ちをしたのは無精ひげの男。細身の男には少し大きく見えるパーカーは雨に濡れてところどころ色が違っていた。
まっすぐにこちらを見つめる男と視線がぶつかる。
彼が優しい目つきのサラリーマンだったなら「すごい雨ですね」なんて気の利いた言葉の1つくらい言えただろうが、その男の風貌はお世辞にも話しかけやすいとは言えなかった。
そっと目を逸らして男から1番遠い所に腰掛ける。
激しい雨音だけがその空間を支配していた。
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