雨の日、煙草は少し甘い

降やむ気配のない雨が地面を打つのを眺めていると、スカート越しの太ももに冷たい重みが加わった。
灰色のそれはまだら模様で、男が着ていたパーカーだということはすぐに分かった。
｢え、これ……｣
男の方へ視線を向けるとまた目が合った。他人に目をまっすぐに見つめられるのは少し苦手だ。心を覗かれているようでドキリとする。
そんな私の気まずさなんて全く無視して、男は私の胸元を細い指で指差した。
｢色っぽいことになってんぞ、着とけ｣
慌てて自分の胸元を見ると見事に水色のキャミソールが透けていた。かーーっと顔が熱くなる。
｢ありがとうございます｣
恥ずかしい気持ちとありがたい気持ち、そこにデリカシーの欠片もない言葉への不満が加わって心が乱れた。
自分の気持ちを隠すようにパーカーに腕を通す。湿ったパーカーは少し重くて、スーツ越しに私の体を冷やした。

雨はまだ止まない。
少しだけあたりが暗くなったように感じた。