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世界中の風が集まる岩壁の上にひとり、魔女が座っている。
その女は眼下に広がる海峡を眺めて、つぶやいた。
……貿易船が、662艘……663艘……
海は光り輝いたまま、時間だけが過ぎてゆく。
僕は、一緒に旅行に来ていた仲間と、偶然にもはぐれてしまった。だけど海がとても綺麗だったので、せっかくだから写真を撮ろうと、見晴らしの良い所まで歩き続けた。
…くっ、風が強いな。
高地では、烈風が吹き荒れている。
帽子が飛ばされそうになるのを懸命に押さえて、崖の上まで来てみると、ひとりの老婆が岩の先端に座っている。奇妙な光景だった。
「何してるんですか。そんな所に座っていたら、危ないですよ」
「うふふ、666艘目」
こちらを見て笑った。目が僕を捉えている。
老婆はそのか細い腕を着物から出して、こちらへ来て、となりへ座れと合図している。
嫌に決まってる。
「下に落ちたら死にますよ。早く安全な所へ戻ってください」
と言い残し、その場を立ち去ろうとしたが、肝心な事を忘れていた。
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