ちっさい怪談 20180625

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【ゴミむし】 派遣社員やバイトを「ゴミむし」と呼んでいた主任の訃報が、午後に届いた。体調が悪いから休むという、電話での連絡を受けていたけれど、病院でいきなり倒れてそのままなくなったそうだ。体内からは、シュレッダーで裂いたような、長細い紙と埃の山が大量に出てきたそうだ。 【シュレッダー】 主任の訃報から、シュレッダーを使う社員が少なくなった。派遣やバイトの子が、書類廃棄をまかされるようになって、シュレッダー前には長蛇の列。改善されることもなく、ほかの仕事に支障も出ている。だって、怖いし、だってきもいし。くねくねといやがる同僚の、耳の穴からひらひら、長細い紙が垂れ下がる。 【みんないない】 派遣元や、バイトの紹介元に会社が「劣悪な勤務先」とレッテルを貼られてから、どんなに頼んでも、彼らは来なくなってしまった。法律や時代の流れを、全く知らないままみんな、ずるいずるいとシュレッダーへ並ぶ。新人に任せて帰ろうとした、先輩の目尻から灰色の、綿埃が出てきた。先輩は、会社を辞めた。 【お先に】 定時に帰ろうと準備していた矢先に、妙な電話がかかってきた。 あいつら、みんな消えたか?俺は、俺はゴミ箱になったんだ。あいつらのせいで。 咳き込みながら、主任の声が電話口で苦しそうに、訴えた。うっかりスピーカーにしたら、みんなどよめいた。 【お元気で】 もうすぐお産だからと、同僚が産休をとることにした。上司は嫌そうな顔をし、なかなか承認の印鑑を押さない。おぎゃあ、おぎゃあ。どこからか、赤子の泣いている声がする。おぎゃあ、おぎゃあ。上司は周囲を見渡したが、赤子などいない。この子かしら。同僚が大きくなったおなかをなでる。ぽこん、と腹が動いた。どうします?上司は真っ青な顔をして、承認の印鑑を押した。元気にお産してね。わたし、お見舞いにいってもいいかな? 【おめでとう】 無事にお産を終えた同僚から、メールが届いた。 赤子は、両手に細長い紙を一枚ずつ、握って生まれてきたそうだ。 何も書かれていない、白い紙を。主任はしぶといのかな、と思いましたとメールは締めくくられた。ああ、そうか。おなかの父親は。
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