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結婚していなくても子供がいなくてもそれくらいはわかるけど、今言っているアンナは特別なことをしているとでも言いたげだ。
自分だけが苦しんでいる人間とでも思っているんだろうな。
思春期の子供じゃあるまいし。そんなことが大人に通用するとでも思っているのだろうか。
ちょっと言ってやりたくなったがあきらめた。アンナにはきっと何を言っても通用しないだろう。
マキエはビールを飲んで息をついた。その時ちょうどテレビで笑い声が上がり、アンナに何も言い返せない自分を笑われた気がして音量を下げた。
「あ、聞いてるのに」
すかさずアンナが言った。さっきまでの切迫した様子はどこかにいっていてすっかりテレビの内容に気持ちが向いていたみたいだ。
こっちは真剣に聞いてあげているのにこの子はどうしてこう、自分中心の反射的な行動しかできないのだろう。
よく考えればアンナのことは嫌いだったかもしれない。もう十年以上前だから覚えてないけど、いい思い出なんて一つもない。
「帰ったほうがいいんじゃない?明日には。子供だってまだ小さいんだし旦那さんだって心配するって。もしかしたらソウサクネガイとか出されているかもしれないよ」
言いなれない言葉を口にした。「ソウサクネガイ」ってどういう字を書くんだっけと思った。多分書けない。
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