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「実はね、おととし事故で死んだの。二人とも。交通事故。ベタな話だけどカーブを曲がりきらなくて、追突して即死だったみたい。単独事故だったから相手がいない分まだいろいろましだったけど、手続きとか本当に大変だったの」
アンナの表情は悲しんでいる様子はうかがえなかった。思い出話を語るのと同じ調子で話すのでアンバランスさについていけない。
たしかまだ還暦前のはずだ。自分の両親と同じ世代と聞いているのであまりにも早い死だ。
マキエは息をひそめるよにして話を聞いた。
「この前ようやく手続きが終わってさ。相続のこととかもあったし、旦那さんがいないと私一人じゃ無理だっただろうな。住んでたマンションも売ったんだよね。持っていても管理が大変だし。私たちもマンション買ってるしね」
「そうだったの。知らなかった。だって全然誰も言わないし」
よく考えれば友達の両親が亡くなっただの報告する人間は少ない。それでも衝撃が強すぎて、口の中が乾いていった。
「友達には誰にも言ってないもの。言ったってお参りしないでしょ。それに他人だしね。いいのよ。別に。私の親なんだから」
アンナは一人っ子だ。いくら成人して結婚して子供がいるといっても両親をいっぺんに急に亡くしたら精神的に参るはずだ。
現実の世界を捨てるようにしてここを訪ねてきた理由がようやくわかった気がして、同情が押し寄せてきた。
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