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誰かの不幸を目の当たりにしてしまうとその人間のことをあまりよく思っていなくてもどうにかしてあげたくなるのは、人間のどうしようもないところの一つだ。
不幸を聞いてはこちらから強く出ることはできない。
マキエはテレビの音量を元に戻して、風呂の準備を始めた。
「うちの風呂はすぐに冷めるからすぐに入って出てね。あとベッドは狭いからとりあえず今日は床で寝て」
かなり譲歩して言ってあげたつもりだった。
だがアンナはすぐに不満の声を上げた。
「えー普通お客さんがベッドじゃない?」
「ダメ」
「えー」
気に入らないという声を上げるが結局マキエはベッドを貸さなかった。
いくら不幸があったとしてもベッドを貸す義理はない。そこは割り切っていた。
マキエが生まれ育った場所は大きなショッピングモールがあるものの若者が集うところといえばそこだけで、あとはおしゃれなカフェもチェーン店であるファミレスも身近なところにはなかった。車で移動できればそれなりにおしゃれな店はたくさんあったが、学生である以上は電車と徒歩で移動するしかなかったので、しょっちゅうは行けなかった。
若いエネルギーを発散する場が限られていたせいか、大概の若者は大学に入学するか就職するかを境に都会に開放されていった。
マキエもその一人だった。
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