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三十分だけ残業をして五時半には帰るつもりだったのに、これでは余計な時間を割かなくてはならなくなったではないか。
不意の電話に出たことを少しだけ後悔したマキエは不機嫌を沸騰直前まで煮詰めて、残業をした。
ほとんどの社員が帰った後に席を立って会社を出ると昼休み明けにチョコレートをくれたオオスギがいた。
白い息が吸い込まれる空の下で体を上下に揺らしながら寒さに耐えている。
マキエはコートの前を丁寧に合わせて防寒しながら声をかけた。
「誰か待ってるの?」
声をかけるとオオスギはすぐにマキエに気が付いて、高い背を曲げて「お疲れ様です」と言いまっすぐ目をむけた。
その目の中には白いライトが一つあり、それは別に周りの街頭や建物の光が映っているいるという意味ではなく、オオスギ自身が出しているライトだ。
「ちょっとご飯でもどうですか」
男性からそう言われたことがなくマキエははじめ自分の左右を見てそして後ろを見てから自分自身を指さした。
「私と?」
「もう年末が来るじゃないですか。あっと今年も四日ですよ。明日は仕事納めですし」
「忘年会なら先月したじゃない」
「あれは会社のじゃないですか。個人的にはしていないでしょう」
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