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その手をとって誘いを
窓の外は青空と、赤く染まった木々、そして、墓、墓、墓。バスは霊園の中を走っていた。
春には桜並木が美しいこの霊園も、今はすっかり秋色に染まっている。墓の合間に植えられた木々はまるで死体の血を吸って美しく、鮮やかな赤に色づいているように見えた。
そんな墓地の中の恐ろしげな空気を、全く無視していつも通りに走る一台のバス。
バスの中は混んでいたが、誰も窓の外を気にする素振りを見せなかった。
「嫌だなぁ……」
亜紀はポツリと呟いた。霊感なんてないし、幽霊を見た事もない。しかも今は昼間だ。それでも墓地の中を走るのは嫌だった。
スマホを取り出してLINEを見るが、親友の香奈の表示は未読のままだった。香奈が学校を休み始めて3日。それからずっと未読のまま。噂では行方不明らしい。
心の中に澱のようにたまった胸騒ぎが、後ろめたさと入り交じって、亜紀の心を黒く染めていく。墓地の中を走っているから憂鬱な気分になるんだ……そう亜紀は心に言い聞かせた。
今朝もバスは墓地を抜けて駅へと走っていく。
香奈は学校に来なかった。本来香奈がいるべき机が気になって、何度も見てしまう。
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