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1945年5月1日 時刻不明 ベルリン
第11SS義勇装甲擲弾兵師団”ノルトラント”所属
アルフレット・ベークマン上等兵
この戦争もいよいよ終局が見えてきた。
俺達の目指した理想郷。オランダ人の俺が言うのもなんだが、よくここまで来れたと思う。
ここに居る全員が夢見た、ドイツへの憧れ、赤軍への報復。
しかし、つい数時間前に届いた、総統自殺の知らせ。
かの第三帝国総統は、最後まで戦う俺達よりも先に、逝ってしまったのだ。
だがそれも頷ける。このまま赤軍の捕虜となった事を考えると……。
ここまで生き残った、数少ない師団の連中の顔も暗い。
胸ポケットからぐしゃぐしゃになった煙草入れを取り出し、残りがないか、探る。
幸運な事に、短い吸いかけの煙草を見つけると、急いで火をつけた。
一口、煙草の紫煙をゆっくりと吐き出し、俺は隣の奴にそれを手渡す。
それを、誰が言うまでもなく、皆が一口だけ吸って、隣の奴に渡す。
オランダ人、ベルギー人、ノルウェー人……。敵国人であるイギリス人、フランス人……。
だがここまで来た俺達に、そんな事はどうでも良かった。
生き残るのだ。必ず。
そんな時だった。
「皆、聞いてくれ……」
俺達と同じく、ここまで生き残った指揮官、ハンス=イェスタ・ペーアソンSS大尉が声を上げたのだ。
「たった今……最後の作戦が伝達された。防衛司令官モーンケ少将閣下の指揮の元、我々は現存する部隊……第1SS装甲師団等と共にベルリン市街北部方面への脱出を決行する。」
そういう彼にも、煙草が手渡された。彼は短くなった煙草を大事そうに持ち、その紫煙をゆっくりと吐き出した。
「 ……ありがとう。……諸君、戦争は……終わった。
今や、このドイツ帝国は赤軍に完全に包囲され、
虫一匹逃がさんという構えだ。
ここで赤軍に捕まれば、我々の未来は完全に途絶えるだろう。
……もはやジーク・ハイルとも、
ハイル・ヒトラーとも、
言うことは、無くなる。
これらは過去の遺物となるのだ。
しかし我々は、まだ……まだ、生きている。 」
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