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extra edition 1
「高橋次長、今夜一杯どうですか?」
支店長は定時で帰り、その横の次長席に座る高橋も、「自分がずっと残っていると部下も仕事がしにくいだろう」と帰り支度を始めると、若手行員の吉村が、お猪口を持ち上げる仕草をして声をかけてきた。
高橋はこの支店に赴任すると同時に次長に昇格し、2年が経つ。
支店長を補佐する次長職も板につき、次の異動での支店長への登用も噂されるようになっていた。
だが、仕事面では順風満帆な高橋も、最近なにやら元気がないと、支店内では噂になっている。
確かに、精気を失った顔をしていることも多く、仕事中にため息をつく回数も増えた。
それまでは毎朝早目に出勤して、休憩室で新聞を読みながらコーヒーを飲むの日課だった高橋が、最近は始業時間ギリギリに駆け込んでくることも多くなった。
あまり食事も取っていないのか、若干頬もこけたように見える。
それを見かねたおばちゃん行員達が、多少の興味本位も含めて、若手男子行員に「飲みに誘って様子を探っててこい」と指示を出したのだ。
「お?ああ、今夜かあ…。
どうせ帰ってもすることないしなあ。
じゃ、ちょっとだけ」
高橋は作り笑いを浮かべながら、パソコンを閉じて立ち上がった。
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