プロローグ 出会い

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今まで融資課畑を中心に課長まで登ってきた課長歴6年の高橋にとって、今更預金窓口業務をしろとは、「俺はお前には期待していない」と言われたに等しい。 いや、高橋にも銀行の根幹業務である預金窓口業務を蔑むつもりはないが、基本的に現代の銀行の預金窓口は機械化が進んだこともあり、係内の職員は主に派遣やパートが占め、管理職だけが正社員という仕組みになっているところが多い。 御多分に洩れず帝産銀行も預金窓口に座っているのは殆どが非正規雇用の職員である。 そしてそれらをまとめる管理職も、主に一般職から昇進してきたベテランの女性課長が任されるのが、帝産銀行の通例となっている。 今回の春の異動では、預金窓口の女性の課長はそのまま残っていて、融資課長が一人転出しただけだ。 人事部としては、前任の融資課長の後任として経験のある高橋を赴任させているはずなのだが、支店長の川崎は、高橋よりも、自分の子飼いでこの春管理職に昇進したばかりの寺田を、たった一人の融資課長に任命した。 寺田課長は、まだ32歳。 この店で融資課を引っ張ってきたエースではあるが、まだ若い。 帝産銀行においての肩書きは、課長は課に一人とは限らない。 本来なら、課長との肩書きはあっても、寺田の経歴なら、融資課か、渉外活動をする営業課の課長の“見習い”として二人目の課長を務めるのが普通だ。     
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