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それだけ言ったかと思うとプツリとその声は話すのをやめ、辺りには静寂だけが残った。
「ねぇ、さっきのって……」
彼女は不安そうに僕の顔をのぞき込む。それもそうだ、突然殺せなどと言われたのだから。
ところでイメージしたものが手に入るというのは本当なのだろうか。あの声が言っていることが本当なのか確かめる意味も込めて、僕は頭にペンと紙を思い浮かべた。
「きゃあっ」
「…………」
本当に出てきた。それも僕がイメージした通りのものが。
「ねぇ、そんなものどうするの?」
「……簡単に情報を整理しようと思って」
その後、僕達は用意した紙に今の状況を書き出した。といってもさっき謎の声が言っていた内容をまとめただけだが。
どう考えてもこの状況から助かる方法はさっきあの声が言ったどちらかを殺す、というものだけだ。……それで本当に助かるかは分からないが。
『あー、言い忘れてた』
突然声が響く。
『両方生きたいっていうのも死にたいっていうのも禁止だからな』
とことん残酷なことを言う、と思った。
『それと残った方はちゃんと生きれるから安心しろよ』
そう言ってまた最初と同じように音が切れ、静寂が訪れた。
「ねぇ、私……」
「どうしたの?」
彼女はその端正な顔を歪めながら言う。とても言いにくそうに、その言葉を口にする。
「……私を、殺してよ」
「……それは、できないよ」
予想していた言葉ではあった。だから僕も考えていた言葉を返した。
僕は彼女がいない世界なんか生きてる意味がないから。僕には……彼女しかいないんだ。
彼女の側にしか僕の居場所はない。彼女が僕に生きる意味をくれたんだ。
だからもう僕の答えは決まっている。
それは、彼女に僕を殺して生きてもらうということ。
殺されるのに躊躇いはない。問題は彼女をどう説得するかだ。ただ言っただけでは先程の会話を繰り返すだけだろう。
僕は思う。
なんとしてでも君には生きてほしい、と。だけどそれはとてつもない傷を君に負わすことになるだろう。
――僕はどうすればいい?
君の笑顔も泣き顔も、ドジな所も……少し嫉妬深い所だって僕は好きだ。君になら何をされても許すことが出来る。
君のためなら僕は死ぬことだって構わない。でも君はそれを許してはくれないんだろう。
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